勇士の帰還

 10月1日から工業技術センターの所長に和坂貞雄さんが就任します。それまでの5年間、名所長として工業技術センターのレベルアップによく尽くしてくれた請川所長の後任です。和歌山の産業の力を伸ばすには、技術開発から。そのためには、県の虎の子の技術振興助成機関である工業技術センターには、超一流の人物を据えねばならない。これが知事に就任した際の私の目論見でした。学識も超一流、それに単なる学問的レベルが高いだけでなく、和歌山県の中小企業の育成に熱心に取り組んでくれる人でないといけないし、所長としてセンターの管理もきちんとしてもらわないといけないし、それに顔が広くて、日本中から当県の産業振興に役立つようなプロジェクトを取ってきてくれたり、最低限そういう情報を取ってきてくれるような人を・・・・。こういう贅沢な望みを持って人選に着手したのですが、天の配剤か、請川さんという素晴らしい人に来てもらえました。産業技術総合研究所の関西センター長を卒業するばかりであった請川さんを、当時の久貝近畿経済産業局長が口説いてくれたのです。請川さんは、エネルギー学会の会長をされたこともある大物の研究者で、学界、産業界から広く尊敬を得ていました。そのような大物の学者にも拘わらず、和歌山の県職員や産業界の人達と頭を低くして親しんで下さり、和歌山県として頂いた恩は計りしれません。
 しかし、任用制度上、任期付採用職員という形を取らざるを得なかったので、常勤職員として5年以上の延長は許されません。そこで後任が問題となりました。私も必死で探し、請川さんにも考えてもらいました。そうして相談すると、何と二人の考えたNO.1候補がまったく一致したのです。それが和坂貞雄さんです。
 和坂さんは、9月30日まで、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の理事を務めていた方で、実は私の桐蔭高校の同級生(と言っても同じクラスになった事はありません)です。エネルギー技術の専門家で三井鉱山に入り、そこからNEDOに転じ、環境技術開発部長を経て理事を3期務めた人です。NEDOというのは、政府の技術開発振興機関としてNO.1の規模と力を持つ機関ですが、民間出身でこの「特殊法人」の世界で、理事にまで登りつめるという人は、何年間に一人しかいないという大物です。桐蔭高校の同総会の時たまたまお会いして、これはいい人だと請川さんの後任に狙っていたのですが、請川さんの意中の人もそうだということが分かり、これは間違いないわいと秘かに口説きに行ったのです。もちろん、こういう大物ですから、請川さんもそうですがNEDOの理事を退職しても、来てくれと言うポストはたくさんあります。条件も和歌山県工業技術センターよりずっといいものがあったはずです。しかし、それを敢えて蹴って、当県に来てくれたのは、生まれ育った和歌山県のために尽くしてやろうという男気です。民間で頑張り、NEDOで認められるためには、和坂さんの人生もきっと大変な苦労があったと思います。まさに企業の、そして、技術振興機関の勇士の中の勇士です。その勇士の帰還に感謝したいと思います。
 和坂さんの話を聞いていて、ほとほと感心した事があります。それは、彼が理事としてプロジェクトとして採択した案件については、必ず理事である彼本人が相手の企業に出向いて行ってそれを伝え、プロジェクトの現場でじっくりと見学して話を聞いてくるという事です。大組織の部門のトップですから、東京の本社で座り込んだまま指令を発するだけで済ますことも出来たでしょうが、和坂さんは必ず現場に出かけたのです。この現場主義こそが、和歌山の中小中堅企業の技術開発を助け、その発展を助ける原動力となってくれるものと私は確信しています。
 勇士の帰還をすべての県民とともに歓迎します。