食材虚偽表示に思う

 阪急阪神ホテルズのメニューと異なる食材を使った虚偽表示問題は、その後、大丸松坂屋とか高島屋に入居している有名レストランチェーンや食材店とかにも飛び火してとどまるところを知りません。ついにはあろうことか奈良の老舗料理屋さんで、ミシュランガイドで3つ星という最高評価をもらっている「奈良万葉若草の宿 三笠」にも飛び火しました。どんどんとこの騒ぎは拡大していますが、阪急阪神ホテルズの社長で阪急阪神ホールディングスの取締役であった方が、双方の職を辞するという発表をする事態になりました。内容は色々ありまして、機械で捏ねているのに手捏ねハンバーグ。バナメイエビという南洋のエビを芝エビ。果ては、上記奈良のミシュラン3つ星の「三笠」では、ブラジル産鶏肉を奈良県産の地鶏「大和肉鶏」、貼り合わせたオーストラリア産の成型肉を和牛ステーキ。・・・と多種多様です。また、特に成型肉では、細切れ肉を貼り合わせただけというものから、見てくれを霜降りのように見せるための牛脂注入というものさらには卵や小麦成分を注入という事例も報じられています。この最後のケースは、単に食材の偽装表示に留まらず、アレルギーを持つ方には命取りになるような深刻な被害を引き起こしかねないものでした。

 発覚した後の責任者の発表も、小さいエビは皆芝エビと言っても良いと思っていたというものから、これまた、上記「三笠」の社長のように、鶏肉を仕入れていた前料理長が、販売を始めた2011年から大和肉鶏を一度も使っていなかったことを認め、社長に報告していたにもかかわらず会見で偽装を否定していたという悪質なものまでありました。その後も、意図的な偽装とみられる事案が次々に判明。事態の収拾を図るため、辞任に追い込まれました。

 日本は、ウソをつかない、信頼されるビジネスをやってきたからこそ世界中で尊敬されてきて、その評価があったればこそこれまでの日本の経済発展もあったと私は思います。そういう観点から、これは大変な問題だと思います。和歌山県では、この問題が発覚してからすぐ10月25日に、私から早速関係部署に、県内の全事業所に、もし同様の虚偽表示があるのなら即刻それを改めて、消費者にわびるように注意を発するように、また、できるだけ、多くの事業所に調査をかけて、誤りがないかどうかをチェックして指導するようにと指令を発しました。10月29日には別記1のように様々な業態の業界団体に別記2の注意書を交付してこれを傘下業者に周知させて下さいという要請をしました。目下、この裏付けを取るため、職員が手分けをして各店舗に調査に伺っています。ウソを言うこと、あるいは、そこまで自覚がなくても、不正確なあるいは誇大な表示で消費者を惑わせることは良くないことですから、各店においてはそういう懸念が少しでもある場合は即刻、正しい表示に改めてこれまでの事を消費者に謝ってもらいたいと思います。

 一方、私は本件に関し、さらに思う事もあります。成型肉をそうでないように装って、ひょっとしたらアレルギーを持っている方に致命的な悪影響を与えることなどは最悪だし、そもそもウソをつく事はとても悪いことですが、消費者の方の問題もあるのではないかということです。消費者があまりにも、表示にまつわる下らない幻想に振り回されてはいないかということです。じっくりと考えてみますと、ハンバーグが手捏ねでも機械捏ねでも、美味しいものは美味しいので、大事な事は、材料とか配合とか、味付けとか料理人の腕前であり、その店の味に対する我々のしっかりとした評価ではないでしょうか。自分が本当に欲しているものは、何だということより、手捏ねだとか、○○ビーフとか△△牛だとかそういう外から与えられた幻想に振り回されている人が多いからこそ、このような虚偽表示が流行る面もあるのではないでしょうか。
 私自身も多分振り回される部分もいっぱいあるとは思うのですが、この事件の発覚の前から少しは、それがどうしたという思いを持つ事もありました。例えば、先ほどの手捏ねもそれがどうしたと思いますし、ファミリーレストランの成型肉も安くて、それなりに美味しいものもあります。また、何故牛肉は霜降りが重んじられるのだろうとかいつも疑問に思っていました。一方でこんなに健康志向の世の中で、ほとんどの国民が肥りすぎを気にしていて、ノンオイルのドレッシングなんかが大流行なのに、どうして牛肉の時だけ、「脂いっぱいの霜降りでなければ」になるのであろうかと思います。何より大事な我が熊野牛も「全国的にはまだまだメジャーではないのだから霜降りを一概に指向しないで、美味しいけれど、脂が少ないような肉を売りにした方がブランド価値が上がるのではないか。その方が熊野=山奥で神聖で幽玄な所というイメージに合うのではないか」と主張して畜産課の諸君に業界の方々と相談してもらっています。

 県民の皆さんも、消費者として悪しき商業主義に振り回されないような自分の好みをお持ちになったらよいのではないかと思います。そういう成熟した消費者がいっぱいいる国では、もはや虚偽表示などは意味がなくなる所も多くなるのではないでしょうか。

                                                        別記1 
【別紙】
   ・和歌山県飲食業生活衛生同業組合
   ・和歌山県旅館ホテル生活衛生同業組合
   ・和歌山県食肉生活衛生同業組合
   ・(一社)和歌山県食品衛生協会
   ・(一社)和歌山県調理師会
   ・和歌山県外食産業協同組合
   ・(公社)全日本司厨士協会関西地方和歌山県本部
   ・和歌山県菓子工業組合

                                                       別記2

                                                 県 民 第 483 号
                                                 食 生 第 490 号
                                                平成25年10月29日  

 別  紙 あて

                     和歌山県環境生活部長

             食品表示にかかる法令遵守の徹底について(通知)
 

 平素は、食の安全・安心の確保に関し特段のご配慮を賜り、厚く御礼申し上げます。 今般、大阪市に本社のある企業が運営するホテル等でメニューの表示と異なる食を使用して料理を提供していたことが判明しました。
 このような行為は、食品表示に対する消費者の信頼を大きく失墜させるものです。 言うまでもなく、食品の表示は、消費者が商品を選択するうえで最も基本的な情源であり、また、消費者の「知る権利」を保障する主要な方法であります。
 商品を供給する者は、正しい商品情報を消費者に提供する社会的責任があります。 つきましては、貴組合員等に対し、景品表示法、JAS法、食品衛生法などの法遵守のなお一層の徹底について、周知いただきますようお願いします。

                                          担当
                                          県民生活課 菊本
                                           TEL 073-441-2345
                                          食品・生活衛生課 久田
                                           TEL 073-441-2634