誕生と別れ

中国でパンダ誕生の報道がありました。わが和歌山県は白浜のアドベンチャーワールドで生まれた愛浜が、5月6日、四川省成都のパンダ繁殖育成研究施設において、出産に成功したとのことでありました。
愛浜は、2006年12月白浜で永明、梅梅の子供として誕生し、2012年12月に中国へ渡りました。白浜のアドベンチャーワールドでは成都の施設とパンダの共同繁殖研究をしていて、赫燿とした成果を挙げ1994年の開始以来14頭のパンダを誕生させ、うち8頭は中国に返しています。血が濃くなり過ぎるのはいけませんので、大きく育ててから中国へ返して、また子作りに励んでもらうのです。それでもこの好成績の結果、今でも白浜にはパンダは7頭もいます。
また、他の動物園と違って室内の施設も広いし、屋外には芝生の庭があって、そこで広々として芝生の上で、パンダが何頭も太陽を浴びてじゃれ合ったりしています。それなのに、日本のメディアの東京偏向により、こんなに魅力的な和歌山・白浜のパンダは、上野動物園のパンダに比し、報道されることがあまりありません。もっとも、最近では和歌山県の必死の努力により、徐々にではありますが、白浜のパンダの認知度は高まりつつあり、それを知って行かれた方は素晴らしかったと異口同音に言って下さいます。

この和歌山生まれのパンダの出産を最も喜んでくれたであろう方が残念ながら4月28日お亡くなりになっていました。アドベンチャーワールドを経営している株式会社アワーズの専務取締役で、白浜のアドベンチャーワールドの飼育部隊のトップであった林輝昭さんです。享年63才ですから、ほんとに早すぎる死、惜しい人を亡くし、悲しみでいっぱいです。御冥福をお祈りします。元気はつらつとした方で、去年の7月にも和歌山県パンダ大使の岡本玲さんと3人で、テレビ和歌山きのくに21でパンダ舎の双子の桜浜、梅浜の前で対談したところ(平成27年8月30日放送)であり、その時はお元気そのものであっただけに、そんなはずはないというのが私の反応でした。聞けば、癌を患っておられて、人の迷惑になるのでお騒がせをしないようにとひっそりと逝ってしまわれたとのことです。

私にとっても、とても辛い別れです。というのは、私は実はパンダを中国から輸入した時の通商産業省輸入課長、ワシントン条約担当課長であるのですが、その時パンダの繁殖研究について、説明に来てくれたのが当時まだ40歳になるかならぬかの林さんでした。
確か、もっと若い女性のアシスタントと一緒に説明に来てくれたのですが、若い林さんが情熱をもって語るパンダへの愛情と周到な研究計画とに接し、清らかでひたむきな、この若い人々の情熱に応えるためにも、是非パンダを白浜に入れて差し上げなければならないと思いました。
15年の歳月を経て、私が和歌山県知事となって故郷に戻ってきた時、林さん揮下のアドベンチャーワールドの飼育チームは赫々たる成果を上げ、見事あの共同研究を大成功に導いていました。本当に林さんにあのとき巡り会ってよかったと思いました。その後も旧交を懐かしみながら、白浜のパンダを売り出すために、林さんには本当に活躍してもらいました。

その林さんは、もういらっしゃいません。林さんの生まれ変わりのように林さんのチームが育てた愛浜の子どもが生まれました。
パンダのみならず、そして多くの動物のみならず、林さんは人を育てました。女性を中心としたアドベンチャーワールドの飼育スタッフは林さんの衣鉢を継いで、今後も多くのパンダをこの世にいざない、育て上げてくれるでしょう。期待しています。林さん、安らかにお眠り下さい。