またまたやったぞ 絶景日本一 和歌山県串本の橋杭岩

 世の中の気になるテーマを番組が独自に調査し、47都道府県をランキング化した特別番組、テレビ朝日『おらが県ランキングダイナンイ!?』における「絶景が多い都道府県ランキング」海の部で、和歌山県が北海道、沖縄県を抑えて、日本一の栄冠に輝きました。和歌山県は三方が海に面していて、海も絶景、川も清流と「水の国、わかやま。」というキャンペーンを展開しているのですが、今回の日本一は、まさに水の国和歌山の面目躍如というもので、大変に感激をしております。

 和歌山の海は、水の美しさはもちろん、白砂の美しい海水浴場がいっぱいあり、その変化に富む絶景は、北の和歌の浦(日本遺産です。)、加太、友ケ島から、日の岬、まるでエーゲ海のような白崎海岸、白浜の三段壁、円月島、千畳敷、すさみの枯木灘、潮岬と大島の断崖、荒船海岸など目白押しなのですが、中でも絶景中の絶景で、もっとも得点の多かったのが、串本町の橋杭岩でありました。橋杭岩だけで、2位北海道と3位沖縄県の総得点を上回る人気であったのだそうです。大小ものすごくたくさんの岩がにょきにょき海の中から生えて本土から大島の方に続いているこの風景は、本州最南端の海の彼方から朝日が立ち昇り、夕陽が沈むのと共に見ると、また格別の詩情を漂わせてくれます。

 最近は随分高速道路も伸びましたので、近くのすさみから1時間弱の海岸線(この光景もそれ自体絶景の連続です)のドライブで着けますので、大阪から約3時間半くらい、列車でも串本駅まで新大阪から3時間半くらいであります。また三重県側の高速道路も随分整備されましたので、名古屋から4時間弱のドライブでこの絶景のたもとに辿り着けます。まん前が便利な道の駅になっていますので、そこからじっくりと楽しめますし、今和歌山が売り出しているサイクリングで800kmをめぐる「WAKAYAMA800」の最高の見せ場の1つでもあります。実はこの橋杭岩、もっともっと語ることがあります。

 この岩は何故出来たのか。これが日本ジオパークに認定されている南紀熊野ジオパークのハイライトになります。古来この紀伊半島はプレートテクトニクスの示す海洋プレートの南海トラフ潜り込みによる付加体と、付加体が隆起するときにできたへこみにたまった前弧海盆堆積体によって形成された地ではあるのですが、そこへおよそ1400万年前に紀伊半島全体に及ぶような火山活動があり、これによる火成岩が付加体と前弧海盆堆積体の間に複雑に入り込んだのであります。すなわち紀伊半島全体が世界最大級のカルデラを形成しているというのが、この地域のジオパークの最大の特徴になっています。
 この橋杭岩は、まさにカルデラに関係するもので、従来の付加体と前弧海盆堆積体の中に深い所から火山活動による火成岩が侵入し、その後弱い周囲の地層が浸食され、固い火成岩だけが残されて、あのような列柱構造ができたのであります。橋杭岩はこのように南紀熊野ジオパークの象徴とも言えるような存在なのですが、世界でもこのような地形を形成している所はそうそうないと思われます。和歌山県は、少し遅ればせになりましたが、この南紀熊野のジオパークを世界ジオパークに認定してもらえるように、様々な準備をしています。来年7月には、この橋杭岩からほど近い潮岬の本州最南端の岬の上に、南紀熊野ジオパークの中心センターを作り、ここと各地のジオサイトを結ぶ交通ネットワークと多くの和歌山のジオ知識を持った県民からなるジオガイドの活動を通じて、もっと南紀熊野のジオパークを世界の皆さんに味わってもらおうとしている所です。

 さらにもう1つとっておきのお話です。
 和歌山というと弘法大師、空海さんです。高野山はその本拠ですが、あちこちにお大師さんのお話が残されています。この橋杭岩もその1つです。

〈熊野古道大辺路の民話より〉
昔々、弘法大師(こうぼうだいし)と天(あま)の邪鬼(じゃく)(人の邪魔ばかりする悪者)が熊野地方を旅して串本までやって来ました。大島の人々が不便でたいそう困っているのを聞いた弘法大師は、「人に見られないように一晩の内に海に橋を架(か)けてやろう」と思い、天の邪鬼にも手伝ってもらうことにしました。しかし、天の邪鬼はいつも人の反対ばかりする上、偉い弘法大師には引け目を感じていましたので、何とかして弘法大師を困らせたいと思っていました。
夜になると、いよいよ二人は橋をかけ始めました。天の邪鬼はふだんから働いたことがなかったので、すぐ疲れてきました。それであまり手伝おうとしませんでした。いっぽう、弘法大師は山から何万貫(がん)もある大きな岩を担(かつ)いできてひょいと海中に立ててどんどん橋杭を立てていきました。「この調子で橋を作ると朝までには立派な橋ができ上ってしまう。何とか邪魔をする方法はないものだろうか」と天の邪鬼は考えました。そこで弘法大師が人に見られぬように夜のうちに橋をかけてしまいたい」と言っていたのを思い出して鼻をつまんで「コケコッコー夜が明ける~」と鶏(にわとり)の鳴きまねをしました。弘法大師は「まだ夜が明けるはずはない」と耳を疑いましたが、もう一度天の邪鬼が「コケコッコー」と鳴きまねをすると夜が明けてしまったと勘違(かんちが)いしてあわてて工事を止めてしまいました。それで今でも橋杭岩は海の中ほどまでしか続いていません。この珍しい岩は、大正13年に国の天然記念物に指定されました。

 皆さんこういう物語を頭に置いて橋杭岩を眺めると、また違った魅力を感じることができると思いますよ。