災害時における停電・通信障害復旧作業の連携等に関する協定

 4月4日、関西電力の岩根茂樹社長と西日本電信電話の小林充佳社長に県庁にお越しいただいて標記の協定を結びました。
 中身は、台風などの災害時に大規模な停電や通信障害が生じた時、その復旧を迅速に行うため、両社の行う復旧作業に県庁が協力に乗り出すことを約束するもので、もちろん全国で初めてのものです。

 和歌山県は台風もよく来るし、大雨も降るし、南海トラフの大地震、大津波の襲来も予想される、災害の備えを一番しておかなければならない県であります。現に最近では平成23年の紀伊半島の大水害に見舞われましたので、その時の教訓も生かしていますし、その前の東日本大震災の恐ろしさも徹底的に検証していて、その結果から、他にはないような防災上の措置を数多く整備している県であります。例えば、和歌山県は地震による海底地層の変動の実測によって沿岸部への津波到達時間、浸水範囲及び浸水高がすぐに計算できて、アナウンスされることになっている全国で唯一の県でありますし、スマホでどこへ逃げたら良いかを県内どこに居ても直ちに表示し、その持ち主を誘導できる、防災ナビアプリを整備しています。
 また、紀伊半島大水害の時の教訓を生かして、治水と利水(発電)の両目的のダムについて、大雨が予想される時は、県が要請したら、関西電力は利水用の貯水分も事前に放流して、実質的な治水対応能力の増加をもたらすよう取り計らってくれています。これは、前回の大水害の後、当時の関電の八木社長に私からお願いして快諾いただいたもので、考えてみたら経済的利益の喪失になるのを承知で協力してくれているのであり、既にこの制度ができてから40数回、水を極限まで事前に抜いてもらう措置を行ってもらったところです。

 このように様々に整備された和歌山県の防災対策は、県庁HP「防災わかやま」で見ることができますが、その特色の一つは、人の命と財産を守るためにはこれは自分の仕事ではないと言わないことであります。
 上記の例で言えば、ダムによる河川治水の責任者は、県であるわけですが、関電はそこでの本来の仕事でないところまで協力してくれて、利水用の貯留水まで事前に放流してくれているのですが、今回のケースの停電と通信障害の復旧は、関電とNTTの責任であるというのが法律の定めるところです。だけど敢えて県が乗り出して助けた方が復旧が速まり県民にとっていいなあと考えたわけです。

 昨年、和歌山県は何度も台風に見舞われました。そのうち台風21号は猛烈な風台風で、県下に甚大な被害が出ました。台風が去った後、和歌山県ではすぐに災害対策本部を開きます。その時内部部局、警察、消防、自衛隊などの公共部門のみならず、民間も含めて、鉄道、電力、通信などの重要なインフラ企業には一堂に会してもらうわけです。そこで復旧事業の段取りとか目処とかを申し合わせて情報を共有しようというわけです。大惨事であった紀伊半島大水害の時は、しばらくの間朝夕2回この本部会合を行っていましたが、それに比べるとさすがの21号台風も大したことは無いので、1回全体の打ち合わせをした後は、その通り各自で対応をしてもらうということになっていたわけです。
 その時は、関電は3日くらいで全体を直せるでしょうと言っていたので、私は、あの大水害の時もあんなに早く復旧をしてくれた関電なのでまあ大丈夫だろうと信頼をしてしまっていました。しかし、停電は1週間が過ぎようという時になってもなかなか直らないのです。おかしいなあと思って調べると、大水害の時より3倍破損箇所があり、動員できる人員は、大阪なども被害がすごいので、三分の一しかなかったということがわかりました。すなわち9倍大変だったというわけです。
 その頃私は一枚の被災地の写真を見ました。有田川町の山奥へ通ずる道ですが、斜面に木が多数倒れて電線がこんがらがって、ぐちょぐちょです。でも倒れた木は斜面と道路との境界線できれいに切られて、道は通れるようになっていたのです。当時なかなか復旧が進まないので、県、市町村や住民はもちろん、経済産業省などもまだかまだかと関電に聞くのですが、関電は道が通れませんので直しに行けません、と言い訳をしていたらしく、そんな情報が入ってきました。そんなはずはない、道路の啓開は、県庁部隊が突撃して大体1~2日で直っているはずだ、と私たちは思っていたのですが、この写真を見て、私は「なるほどこれか」と閃いたのであります。道路啓開隊は道路だけは直したが、本来電力会社が直さなければならない電力線は放置してあって、それは倒木に絡まれ斜面崩落に巻き込まれてごちゃごちゃのまま放置されている。電力会社の作業員はただでさえ数が足りない上に、電柱を立て架線をするのは上手でも、こんな斜面を直す土木工事はそう得意の人たちではあるまい、これが私が思ったことです。そこで直ちに県庁土木部隊を動員して関電の復旧部隊への支援を始めたのでした。その後復旧は飛躍的に進み、最後の復旧が終わったのは京都府より早かったのですが、こういうことは、やはり事前にシステム化しておかないと、災害時に咄嗟に考えていると混乱が起こるなあという思いに至り、その後の事務的詰めを経て、4月4日の調印に至ったのです。
 
 法律の定めにより、災害の復旧は誰の責任ときっちりと書いてあり、停電や通信障害を復旧するのは、電力会社や通信事業社でありますので、ややもすると、国や県や市町村は、早くやれと言うばかりで、自分の仕事とは思いません。その結果ある市で起きたことですが、市に苦情が殺到するのでたまらないから、電力会社から市に人を出して苦情の処理をやれと言ったりする事態が生じます。これでは、ただでさえ復旧に人手が足りない電力会社がもっと人手が足りなくなるわけです。一番大事な事は、本来のクライアントであるお客様=市民=県民が早く楽になることです。そうだとすれば誰の仕事だなどと言っていないで、皆で力を合わせるのがあたり前ではありませんか。私はいつもそう思っています。

 関電やNTT西日本はあの時は本当に大変でした。皆が早く直せというものだから、早く出来ない理由が全部道路が不通のためになってしまって、それがホームページで毎日繰り返されるもので、現場を見ていない人は、それを信じてしまいます。多くの関電の人ですら多分そう思っていたようです。他の電力もほとんど同じ状況だったと思います。
 他電力の管内のある県の知事さんが長く復旧に手間取ったのは、道路がずたずたで通れなかったからだと言っていましたね、とその県の人に後で聞いて、私はにやりと笑ってしまいました。きっと電力会社の人の言うことを鵜呑みにしているな。もしそうでなければ、逆に大したことのない道路の破損をそんなに長く啓開できなかった県の土木部隊は何をしていたと言われるでしょうに、と。

 はっきり言って、21号台風の後の停電の復旧をあんまり時間がかからないと読み違えたのは私の責任でもあります。紀伊半島大水害の電力復旧の華々しさの成功体験が私の感受性を鈍らせたと思っています。
 関電もNTT西日本も立派な会社ですから、すぐに社内で、何故あんなに復旧に手間取ったのかと徹底的に検証し、改善策も考えて、両社ともわざわざ社長が説明に来て下さいました。その社内改革のさらに延長上に今回の協定があるのです。
 先に和歌山県は防災対策では、よそにないあっと驚くような装備をしてあって中々のものですよと言いましたが、今回の停電と通信障害が長引いたという反省を心に深く受け止め、おごることなく対策を充実させ、それをいつも発動できるようにテストをし、県民の方々にPRをし、訓練をしてもらうことを呼びかけ続けなければならないと強く思いました。