関西農業「+α」で復活

 2019年10月25日の日本経済新聞朝刊の関西広域経済の欄に標記の記事が載りました。総産出額が14年ぶり5000億円台を回復したということで、地域の特性などを生かした付加価値の高い農産物へのシフトが良かったというのがまとめです。

 その記事の最初に果実の伸びが中でも一番大きいということが報じられていて、和歌山のみかんが取り上げられています。引用させていただきます。
 『17年、和歌山県のミカン価格に異変が起きた。出荷価格が1キロ304円と10年ぶりに全国平均を上回ったのだ。和歌山は年約15万トンと日本一のミカン産地だが、秋に出回る「わせ」の比率が高く相対的に価格が安いのがネックだった。18年も全国平均は上回ったもようだ。
 背景には県やJAグループが5年前から始めた取り組みがある。センサーを用いて糖度などを測定し基準に満たないミカンを加工用に回し、市場に出荷するものを厳選する活動の成果だ。「生産者側でも翌年の品質改善につなげる姿勢が強まった」(JAありだAQ南選果場=和歌山県広川町=の青木元男場長)
 実は復活しつつある関西で一番伸びた農産物は果実だ。17年の果実の産出額は1038億円と3年間で35%増え、全国の伸び(1割)を大幅に上回る。地域別でも果実の産地である和歌山の産出額の伸びが同29%増と突出している。』

 うまくいっていることを他の人に取り上げてもらうと嬉しいものですが、書かれていなかった情報を加味すると、記事にあった「厳選みかん」出荷方式を全県的に採用してから、ミカンの産出額は3年連続で全国1位を記録していますが、2017年には果実全体でも、15年ぶりにリンゴ生産で圧倒的に強い青森県から果実産出額日本一を奪還しました。和歌山県は全国的に見ると実に特異な農業を営んでいる県でありまして、全国(北海道を除く都府県)で見ると農業産出額の1番は畜産で32%、2番は野菜で28%、3番手は米と続くのですが、和歌山県の農業は果実が67%もあり、米と畜産はうんと少ない県なのであります。その和歌山県で主力の果実がうんと伸びたということは、本当にうまくいったのであります。果実は、全て典型的な商品作物で、市場で評価されて「なんぼ」の世界です。しかし、日本の人口も頭打ちであるのに加え近年消費者の果実離れが結構あって、かつて、ミカンや梅で大儲けをした和歌山農業も不振を囲っていました。大変美味しい、良い物を作るが、作物はJAに持ち込んで、JAは卸売市場へ持ち込んで、後は頼むというのが和歌山農業でありましたので、和歌山県の農業政策としては、販売促進によって収入を多くするというのが第1の戦略になります。市場の有力者のご意見も聞きながら工夫した一例がミカンの厳選出荷方式ですが、そのほか加工分野、機能性商品分野など6次産業化への誘導、それらを含めて巨大な専門見本市に事業者を連れて行く、農産物の安全を究極まで追求した「わかやま農産物安心プラス」、果物など農産品の健康機能性をアピールした「おいしい!健康わかやま」キャンペーン、テレビ、新聞、健康ジャーナリズムへの売り込み、インターネット販売の振興、梅、糖類、酒類だけを原料とする梅酒のPRのための「本格梅酒」制度、観光と農業を組み合わせる「ほんまもん体験観光」、世界農業遺産への「みなべ・田辺の梅システム」の認定、日本農業遺産への「下津蔵出しみかんシステム」の認定など、思いついた事は全部手を打ってきました。また、究極の販売促進は海外市場だということで、諸外国の植物検疫という実質的な輸入制限と戦いながら、県庁職員も大いに営業に頑張って少しずつ海外販路も広げつつあります。

 そういう諸々の努力と多くの農業関係者の努力の結果が、上記日経新聞の「17年の果実の産出額は1038億円3年間で35%増え、全国の伸び(1割)を大幅に上回る。地域別でも果物の産地である和歌山の産出額の伸びが同29%増と突出している。」という結果に繋がったものと考えます。

 しかし、和歌山がトップを走るとは言え、関西全体の農業生産額が大幅に伸びているという事は喜ばしいことです。上記日経新聞によれば、関西2府4県のいずれもが、農業生産額を伸ばしており、マイナスの県はありません。(14年:4,381億円→17年:5,030億円 15%増)
 各県でそれぞれ関係者が必死の努力をして、このような結果をもたらしたものと考えます。
 私は関西広域連合の農業担当もしていますので、このような動きを加速させようと、関西広域連合の仲間と語らって関西の「共通農業政策」を進めています。この名前の本家のEUのそれとはマンデイトも違うので比べようもありませんが、現在の制度のもとで各府県がそれぞれ独自に農業振興策を講じているという事を前提に、さらに協力して各府県だけでは不可能なアクションを追加して、その成果を拡大しようとしているのです。

 例えば、関西各府県は、それぞれ特色のある美味しい農産物がありますから、これを学校給食でお互いに供し合うとか、企業の社員食堂で域内の美味しい農産品を採用してもらうとか、各地にある直売所で他府県の特産品をお互いに売りっこするとか、輸出促進のためのノウハウを各府県の農業関係者や食品製造業者などに修得してもらうとかですが、最近は、各県の農業政策担当者も、段々とこのような共通農業政策の意義を分かって下さるようになり、事業拡大に賛成してくれるようになりました。

 このように販売促進から入った農業政策ですが、県レベルでは特に新たな課題も意識されるようになりました。
 それは、例えば県のプロモーション活動により外国からかなり発注が来そうだというので、農家サイドに商品を供給してくれるように勧めた時に、農家サイドから、もうほどほど儲かっているので、生産量をもっと増やして、輸出をしてもっと儲けようと言っても中々応じてくれないということです。この背景には、農家の経営主体が個人で、結構高齢の方も多く、事業拡大意欲もそれほど強くないといった事情や、拡大しようにも人手が足りないからもう無理だという事情もあります。その一方では、後継ぎのない高齢者の農家廃業をする方もいて、耕作放棄地も増えていっているという現実もあります。従って、今後は、もう一度農業生産の強化にも力を入れなければなりません。

 そのため和歌山県では、あんな小さな国なのに農産品輸出が世界第2位というオランダの農業を職員に学びにやらせて、ハイテク装備された施設園芸のスマート農業で生産性を上げていこうとか、農地の貸し借りを様々な方法で促進しようとか、JAを含めた様々な農業法人を振興しようとかこれから多方面に一層力を入れていく予定です。

 私は、これからの日本で本当に国際競争力がありそうな産業分野は、生命科学の周辺と農業しかないのではないかと時々思います。あんな美味しくて立派な果物を作れる国は日本しかないし、あんなに清潔で安全な農産物を作れる国は日本しかないからです。私の少ない外国との関係の中でも切々と感じられます。日本が今苦しんでいる外国の検疫包囲網を打ち破ってくれるのは国だけなので、国にも大いに助けてもらいながら、地方公共団体も農業生産者も流通関係者も力を合わせて農業を盛り立てていけば、日本の農業の未来はこれからは明るいと思っています。
 上記日本経済新聞の記事は、このような方向を照らしてくれた光のようで、少し嬉しくなりました。