就職氷河期世代の非正規雇用の人やUIターンの人を県庁に

本県では、来年度の職員採用試験から就職氷河期世代を対象とした試験とUIターン型の民間企業等での職務経験者を対象とした試験を始めることを昨年11月の記者会見で発表しました。

1. まず、就職氷河期世代を対象とした採用試験は、バブル崩壊後の雇用環境が厳しい時期に就職活動を行ったために、正規雇用の職に就けなかったり、早期に退職した結果、長らく非正規雇用等不安定な雇用状態から脱出できない人に、正規雇用の機会を作りたいという思いから始めるものです。
 実は、このような非正規雇用の一般化は小泉内閣の時に行われた経済構造改革によって加速されています。当時はバブル崩壊後、段々と経済の不調が進んで行き、特に円高にも影響されて日本経済の高コスト構造が大いに問題にされた時代でした。日本の高コスト構造に苦しむ日本の産業界からは、このままでは外国企業との競争に負けてしまう、それに立ち向かうには日本国内での生産はすべて海外に移さなければやっていけない、もう企業を閉じざるを得ない、閉じなくても大量の首切りをせざるを得ないというような声が上がっていました。 そこで日本経済を守るために行われたのが経済構造改革で、その要素の1つがフレキシブルな労働システムであったわけです。
 それまでの日本のシステムは、学校を出たら、企業に入り、そこでその会社のために一生働くという終身雇用であったわけですが、そうすると中堅から高齢者はどうしても高賃金になり、労働の移動も円滑にはできないから、派遣や期限付雇用やアルバイトといった様々な雇用形態がより自由に選択されるようになりました。私は当時経済産業省にいたわけですが、主として対外的な政策の担当で直接このような経済構造改革の中心にいたわけではありませんが、企業がやめてしまったり、大量の首切りがでたり、若い人の就職ができなくなるよりはましだと、このような労働法制の規制緩和を是認する気持ちをもっていました。その考えが間違っていたとは思いませんが、その結果、今日に至るまで、正規雇用からは阻害された就職氷河期の方々が、非正規雇用の中で恵まれない状況にあり続けているという現実に対しては心が痛みます。そういう方もはじめは意図に十分沿わぬ就職をするよりは、非正規でもいいやと考えたのかもしれませんが、それが長い間固定化されてしまうと、正社員として就職した人との間でものすごい差がついてしまったというケースもかなりあると思います。
 あの時、このような経済構造改革によって破局を免れた日本経済ならば、景気も全体として回復し、労働需給がむしろ逼迫して人手不足が云々される今日こそ、この非正規雇用のままとどまってしまった就職氷河期世代に目を向けるのが我々の責務ではないかと思うのです。私は少なくとも経済構造改革に反対をしなかった1人として、義務感を持って行動を起こしたいと考えました。

 対象となる方の中には、能力や意欲があり、チャンスがあれば活躍できる潜在力を有した方も多くいらっしゃると思いますので、そうした方に県勢発展のために力を発揮してもらいたいと考えました。ただし、県職員として採用する以上は、その職員をどのように育成して、ちゃんと活躍してもらうかを考えなければなりません。長い間、非正規雇用の職場で働いてきた人を同じ期間県庁で働いて、関連する業務上の知識や働き方のノウハウを身につけてきた人とすぐに同等に働いてもらえるかどうかということは考えておかなければなりません。そのような人を、他の人と区別して一格下の職員として、特別な業務だけを一生やってもらうというのでは、何のための正規採用かわかりません。つまり途中採用者の「同化」をどうやって行うかという問題が残るのです。そこでこの問題に和歌山県よりも前に着手してきた数少ない地方公共団体がこの問題をどう解決しているか徹底的に調査をしましたが、どうも特段のことをしてはおらず、ただ採用をしているだけというのが実情のようでした。
 また県庁で採用する際には、和歌山県の大事な民間企業を害するようなことにならないかを考えておかなければなりません。県庁職員は、和歌山県のような地方では人気職種です。したがって、民間で正規雇用をされて、脂の乗り切っている中堅社員がこの機会に県庁に移りたいと考えられると、県経済にダメージを与えてしまいます。あくまでも、途中入庁の手をさしのべるのは民間企業が正規雇用職員として雇わない人に限るべきです。実は昨年一年間和歌山県は民間企業にも非正規雇用の正規化を図るように大いに働きかけをしました。民間企業が正規職員として今雇っている人やこれから正規職員として雇おうしている人を県庁が横取りしてはいけません。

 以上のような問題に対処するため、本県では受験資格において3つの要件を設けました。

(1) 1つ目は年齢についてです。政府の「経済財政運営と改革の基本方針2019(通称:骨太の方針)」では就職氷河期世代の中心層を35歳~44歳としていますが、本県では36歳~45歳を対象としました。和歌山県庁は、非正規雇用でずっといた人を採用して、訓練を施し、最終的には、初めから県庁に採用された同年代の人々と対等平等な処遇をしようしているのです。上限を45歳としたのは、入庁してからの長期のキャリア形成を考え、複数の職場、職務経験を経てキャリアを積み、身につけた知識や経験を県勢のために還元してもらうには、定年退職までに少なくとも15年は必要と考えたからです。それ以上の年齢での入庁となると、いくら優秀であっても責任あるポジションまで昇任することが難しくなり、本人のモチベーション維持の観点からも望ましくないと考えたからです。

(2) 2つ目に「直近、過去1年の間、正規雇用で就労していない方」という要件を設けました。これは、県内企業等で正社員として活躍されている方も受験できるようにしてしまうと、先述のように結果として県庁が県内企業から大切な社員を引き抜くようなことになる懸念があるからです。県内企業を支援する立場であるはずの県庁が県内企業の足を引っ張るようなことになってはいけないと考えました。

(3) 3つ目は、「正規雇用で就労した期間が通算3年以下の方」というものです。正規雇用の職に就こうと努力し、一度は職に就いたものの、何らかの事情により短期間で退職せざるを得なかったような方まで受験できなくしてしまうのは厳しすぎると思うので、こういう限定項をつけました。
 なお、「3年以内」としたのは、就職氷河期世代は、新規大卒者の3年以内の離職率が他の世代と比べて高くなっており、こうした3年以内の早期離転職者は、能力開発機会が少なく、企業に評価される職務経験も積めていないので、安定した職業に転職する機会が制約されるなど、特に厳しい状況に置かれていると考えられるからです。

 このように採用した人は、最終的には県庁に初めから入った人と「同化」してもらいますが、そのためには訓練とも考えられるキャリアパスを行います。高い年齢で県庁に入った方が、いきなり若くして県庁に入って経験を積んできた同年代の職員と同じレベルの仕事をするというのもなかなか難しいと思います。そこで、採用後初めのうちは県民の方々と接する機会の多い振興局などの出先機関を中心に勤務してもらうことを考えています。これはやむなく非正規雇用等に留まってきた方であっても、これまでの社会経験の中で、対人交渉能力は培われていると思いますので、まずは用地交渉や税の窓口業務などに従事してもらって、その後、県庁の仕事のことがわかってきたら、意欲と適性に応じて、どんどんと違う部署で活躍してもらうことも考えています。

 このような就職氷河期世代を対象とした採用試験は、近く発表する職員募集要項に入れて、今年の採用試験の一部とします。合格した人は来年4月1日から働いてもらいます。

 そうしたところ、記者会見の後で、県民の方からこうした要件に関していくつかメールをいただきました。①対象年齢をもう少し広げて欲しいというご要望、②なまけぐせのついている非正規雇用の人(偏見だと私は思いますが。)を雇用して大丈夫なのかといったご心配、③結婚や育児のために離職した人やいわゆるブラック企業で正規雇用として我慢して働いている人も対象にすべきではないかといったご意見です。

①については、上記(1)で述べたとおり、「同化」のためには、45歳くらいがぎりぎりと考えた
のです。

②については、前に述べたように、ずっと非正規雇用に甘んじていた人も、そのすべり出しは
正規雇用の人とちょっとした差によって生じ、長い不況の中で、そこから抜け出せなくなった人が圧倒的に多いことを考えると、中々難しかろう採用試験を通り、その後の訓練を経れば県庁職員として県民のお役に立てることを私は信じます。

③については、和歌山県はそもそも受験可能年齢を引き上げているし、また県庁でなくても、一旦職を離れた人が再就職ができ、また企業の労働条件に不満のある人がより条件のよい企業に移ったり、大都会などに就職していた人が、和歌山に帰って和歌山の企業に就職できるように本県独自の「就活サイクル」を県内企業と協働で構築していますので、そちらの問題だと思います。

2. 次にUIターン型の民間企業等で職務経験者を対象とした採用試験ですが、これは県庁が進めている第二就活の1つでもあります。和歌山出身でなくてもいいのですが、都会で仕事に就いて、経験も充分に積んで職業生活も半ばにさしかかったくらいで、和歌山に帰りたい・和歌山で仕事をしたいという方がいると思いますので、そのような方に県外の民間企業等での経験の中で培った経営感覚や発想力を活かして和歌山県勢発展のために活躍してもらいたいというものです。
 こちらも就職氷河期世代の採用試験と同じく県庁が県内企業から大切な社員を引き抜くようなことにならないよう、県外在住でかつ県外企業等での職務経験を充分に積んだ、経験7年以上有する方としました。

3. 本県ではこれまでも採用試験について、前述のように平成18年度の試験から、一定の社会経験を積んだ方にも活躍してもらえるよう年齢上限を35歳まで引き上げたり、平成21年度の試験からは、年々難しくなる公務員試験の勉強が文化・学術、スポーツ、海外生活等の分野において様々な事情で必ずしも十分できなかった人に対してもそのような分野における活動の過程で培われた人間力を評価する特別枠の採用試験を設けるなど一工夫をしてきました。
 今回の就職氷河期世代対象とUIターン型という新たな2つの採用試験の取り組みも、今の時代に応じた優秀な人材を採用し育成していくための一工夫です。
 県民の幸せを一生懸命考えて行動できる情熱と正義感を持った「我こそは」と思う方には、この新たな採用試験に挑戦して、是非和歌山県の職員を目指してほしいと思います。