新型コロナウイルス感染症対策(その33)-最近の動向と将来-

 コロナ感染がまた段々と発生数が増えてきて、心配しています。東京の発生数は驚くべきものがあり、憂慮していますが、段々と各地に感染が拡がってきたようで、和歌山県でも、久しぶりに7月9日2人報告されたと思ったら、7月10日5人、7月11日4人、7月12日5人、7月13日3人、7月14日1人と、あっという間に合計20人の感染が見つかりました。その後また感染者が0の日もありますが、何人かの感染が見つかることが多くなっています。私は、これからもコロナは出るだろうが、あんまり大変大変という印象が出過ぎると、県民の皆さんが怖がりすぎて、普通の生活や仕事ができなくなるので、自分では記者会見に出るのはやめますと宣言しているのですが、中味は、毎回詳細に聞いているので、よく承知しています。いずれは和歌山県でも新規のコロナ患者が発見されるとは思っていましたが、7月9日の発表分の報告を聞いた時は、これは少々困ったところで発見されたというのが印象でした。というのは、1人は大学生で発症後しばらく大学に通って、そこで多くの人と接触しているし、もう1人は大会社の社員さんなので、関係者が多そうだと思ったからであります。案の定、調査、検査、隔離、囲い込みをしていくと、結構多くの陽性者が発見されました。
 和歌山県の、保健医療行政は、一番初めの済生会有田病院の案件以来、定評のあるところですが、では行政が何をしているかというと、徹底して感染者の行動履歴を調べ、濃厚接触者を特定して、症状があろうとなかろうとPCR検査をし、濃厚接触者とまではいかなくても、多少関係のあった人には様子を聞きに行って、その中にコロナにかかっている人がいないかとできるだけ早く調べるのです。それでその中に陽性者がいることが分かったら、今度はその人の濃厚接触者、関係者を調べ、その中に万が一陽性者がいたら、また同じ事を繰り返していきます。そして、陽性者は全員入院してもらって、他の人々とは隔離をする、こういう作業を地道にやっているのです。こうして、もうこの関係では関係者が全員陰性が確認できたということになったら、このグループは囲い込み完了というわけです。こうして囲い込みを忠実にやっていくのが感染症法の保健医療当局の義務で、これがあるからこそ、日本は欧米に比べ感染の爆発が防げていると私は思います。次の図は以上を模式に示したものです。したがって、一人が感染するとけっこう感染者総数は多くなりますが、それは以上のようなオペレーションをやった結果です。

 このように保健医療行政で県当局が頑張るから、県民の皆さんは、それを前提に、生活と経済を立て直しましょうと私がよく言うのは、以上が背景です。最近「囲い込み」という言葉を厚労省の通達の中で発見してにやりとしました。というのは、この言葉は記者会見などでしゃべる時、和歌山県の保健行政の営みを説明する言葉として一口で何と言ったらよいかと考えて、私が発明して5か月前頃から使い始めた言葉なのです。もちろん、この世界の専門用語として、昔から定着していた言葉かもしれません。それはともかく、この囲い込みをきちんとしていないと感染は爆発します。私は、感染症法のある日本で、爆発が起こるのはかなりの程度、その地域の当局の法執行の義務違反のためであり、その地域の行政当局の責任だと思います。時々、あちこちの行政の責任者がその地域の現状や対策を説明するために、TVに登場されますが、放送されるのは、たくさん説明をした中のごく一部のみです。しかし、それでも聞いていると、これはちゃんとやっているなという所と、これは心配だなという所がすぐ分かります。
 今回の感染の再拡大の時、北九州市でクラスターが発生し、ごく一時東京と北九州市がコロナの感染の発生者数を競いました。でも私は、北九州はそのうち収まるぞと思い、周囲にもそう言っていました。何故私がそう思ったかというと、北九州市はトップ自らが決死の覚悟でこの感染を囲い込むぞと表明しておられましたし、感染者数の発表の中で無症状者がたくさんいたからであります。事実予想通りになりました。無症状者の陽性患者をたくさん発見するためには、既感染者の濃厚接触者のPCR検査を症状のあるなしに関わらず、悉皆やらないといけません。それを北九州市は必死でやっているので、これはそのうち囲い込みが完了するなと思ったのです。最近の厚労省の感染症法の通達では、(これが法律のいわゆる有権解釈となります。)濃厚接触者には必ずPCR検査をして、陽性者は隔離をし、陰性者にも2週間の経過観察を厳重にやれということになっているのです。それなのに、昔の混乱期のように濃厚接触者でも症状のある人だけを検査していては、どんどん症状のない感染者から周囲に感染が拡がり、いずれ感染が爆発してしまうのです。それが分かる発言としては一例を挙げると、「本日は一斉検査をしましたので、感染者数が増えました」なのですが、本来は毎日濃厚接触者を追っかけ回さなければいけません。またついでに、「陽性判明者のうち○%とは、連絡が取れなくなりました。」などと言うのは論外です。隔離をちゃんとしておかないとうつります。

 あまり感染者数が増えると、保健当局がこのようなことをする能力を超えてしまうということもあり得ますが、それでも、もうだめですと諦めてしまっては、それこそ感染の爆発とその後の国民・市民の行動の抑制しかありません。一気に全部をカバーできなくても、できる限り必死でやっていると活路が徐々に開けていくのは、北九州市の例でも証明されていると思います。なのに、保健当局がこのような義務を始めから果たしていないとしたら論外です。国民・市民の行動の抑制にだけ頼ると日本はおろか世界の生活と経済を破壊することは、我々も最近経験したところです。

 全ての、もちろん和歌山県も含め、都道府県市の当局の奮起を期待します。また、感染症法の義務をきちんと果たすことは、地方の当局の義務なのですから、それを十分に果たすように厚労省が大いに指導したり、応援に入ったりしたら良いのにと思います。

 というわけで現下のコロナの再流行の兆しは大変憂慮すべきであります。しかし、上記のように、日本には感染症法と保健所を先兵とする保健医療行政という大事な武器があるのです。それを忘れて、感染防止=行動の抑制・営業活動の禁止しかないように考えるのは危険です。もちろんそうすれば感染は必ず抑制されると思いますが、生活と経済の破壊という別のリスクが強まります。和歌山もそうですが、日本中の個人サービス業や観光業の惨状はものすごいものがあります。人は、一つのことに気を取られると他の不都合な事実はその時は目に入りません。しかし、それはなくなったわけではありませんから、いずれそちらが耐えられなくなるものと意識されるようになるでしょう。高橋洋一さんが金融政策のあり方を語る際に紹介しておられた、成長、雇用と自殺者の数の恐ろしい相関も私の頭には浮かびます。我々行政は一つのことばかり気にしていれば良い、後は知らないということが許されない存在です。県民の幸せのために全てに責任を持たなければなりません。一つの不都合な真実がある時、「大変大変」と言うと、おそらくそう言った人の好感度は高まります。一方その時、「そればかりだとこんな別の不都合が生じるから、大変大変とばかり言ってられません。」などと言う人は、不人情な人として不人気になるでしょう。それでも我々は、全てに目配りをして今の政策を決めていかなければなりません。

 そういう観点からすれば、初めに書いた、コロナに保健医療行政がどう立ち向かっているかを県民の皆さんに理解していただいた上で、コロナはおそらく今後も発生し続けるだろうけれど、爆発はさせないように頑張るので、過剰に神経質になって、生活や経済を破壊しないようにして下さい。もちろん安全上の配慮をしながら、仕事や学業に励んで下さい。また安全な生活上の楽しみも考えて下さい。コロナ以外の健康上の配慮も忘れず、医者に行かずに病気の進行が手遅れにならぬようにして下さい。というのが我々のメッセージです。
 そのように今は言う時期かなと、多少びびりながらも勇気を持って申し上げます。

 ただし、あらかじめ決めておいた再自粛要請基準に関し、県外の感染者が大阪や首都圏でかなり増えたので、一部基準を超えるところが出てきました。また、和歌山県の感染者について行動履歴などを調べると、県内での二次感染(濃厚接触者にうつったなど)を除くと、大阪や東京の会食が原因である場合は圧倒的に多い状況です。そこで、7月21日の記者会見で「大阪や首都圏で会食をするのは控えてほしい。もちろんいわゆる夜の町で接客を伴う飲食店にわざわざ行くというのも同様です。」と申し上げました。

 また、あらためて
「通学前・出勤前には必ず検温し、発熱があれば、通学・通勤はしないで、クリニックの受診をお願いします。」
「各事業者においては、改めて、県や各業界から示されている感染拡大予防ガイドラインの遵守徹底をお願いします。」という発表をさせていただきました。
 現時点では、これでいいのではないかと思います。 

 ただ、我々の努力が事態の進行に負けてしまうことも考えておかないといけません。その時は恥を忍んで、県民の皆さんに各種自粛を、あるいは強くお願いしないといけなくなるかもしれません。そのための前述の再自粛要請基準も和歌山県は作ってあって広く公表しています。しかし、これはあくまでも恥を忍んでであります。コロナが流行ってきたからといって、行政が恥も忍ばず、自粛要請だけに頼るのは、それこそ恥ずかしいことだと思います。