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仁坂吉伸の思い

新型コロナウイルス(その51)-積極的疫学調査-

2021年01月25日

 コロナ大流行の中で、全国的にどのくらい国民活動を制限するかという点では、皆関心が高く、マスコミでもよく議論されていますが、保健医療行政がもっとしっかり、国民(県民)を守るように頑張らないといけないではないかという議論はほとんどありません。全てのコロナ対策の中でこの領域こそは、全て県の(一部市町村の)行政の領域であって、その責任は全て県、したがって端的に言えば始めから終わりまで県知事にあります。
 しかもこの領域こそは、日本など東アジアにのみ備わっているもので、欧米には欠落している領域なのです。よく、ファクターXといって、欧米と日本等東アジアでどうしてコロナの発生数も死者数も桁違いに差があるのかということが言われましたが、そんなことは、欧米に保健所があるかとか、それがある日本の中でも、保健所が頑張っている一部地方とその強化に関心が無い一部の大都市の県等でコロナの発生数にどれくらい差があるかを調べれば、すぐ分かることです。
 しかし、それがあまり国民に意識されないのは何故かというと、マスコミがあまりこの事に関心が無く、そんな議論などメディアでされないからで、それは何故かというと、マスコミによく出てくる感染症の専門家という人達がこの分野に興味も知見も薄いこと、更には、それに影響を受けた都道府県の知事のような影響力のある方がこの部分に余り関心を払わないということによるというのが私の推測です。
 更に下司の勘ぐりかもしれませんが、保健医療行政こそは逃れようもない地方公共団体と感染症の専門家の領域なので、そこが問題となると、すぐに責任問題になるから、議論を他に転嫁しているのではないか、例えば野放図な行動を止めない若者や、夜遅くまで営業を続けているお店や中々動かない政府、さらにはGoTo政策などに責めを飛ばそうとしているのではないかとも疑ってしまうのです。

 和歌山県はコロナの拡大防止には主として保健医療行政が担う、それを前提に県民の皆さんには、最低限の注意だけを守って下さいと言って、あまり生活、経済の制限はしないという政策を鮮明にしているので、コロナの拡大も生活、経済も、どうなるかの結果に対してはこの政策を採用した私に責任があります。でも県民の幸せを、もちろん相対的にではありますが、一番よく守れるのは、政策パッケージしかないと確信しているので、県民の皆さんにその旨ご説明しながら、それをとり続けているわけです。
 この結果、気の毒なのは、保健医療行政に携わる職員とその向こう側でカウンターパートとして対応してくださっている医療関係者の皆さんで、初夏の一時を除いて、ずっと働きづめで県民の安寧を守ってくれているのです。本当に申し訳ないと思います。

 では、その保健医療行政は何をしているかというと、これもいつも言っていますが
 1 早期発見
 2 早期隔離
 3 徹底した行動履歴の調査
 4 保健所の統合ネットワークとしての運用
です。

 県庁をヘッドクォーターとして全県の保健所が活躍して、上記のことを行ってコロナを抑え込もうとする営みを専門用語で積極的疫学調査と言います。日本でも昨年の初めのころ、この言葉は、度々マスコミの報道をにぎわしたということを覚えておられる方も多いでしょう。私自身は、昨年の2月に勃発した済生会有田病院の院内感染の抑え込みのために、全力で取り組んでいた時だったので、自分たちが必死でやっている保健医療行政の行為がこういう名称で呼ばれていることについて、少し語感的に違和感がありました。しかし、当時は国も、少なくとも国の専門家の方々も、この積極的疫学調査を重視して、地方でこれをする時はこういう方法でそれを実施せよ、などという指令をどんどん出していたのです。(付言すれば、そのうちいくつかは医学的にも論理的にも間違っていると思ったので、和歌山県では従わなかったのですが、いずれも後でその誤りが明らかにされ、和歌山県の方法でよかったということが分かりました。)
 ところが、いつの頃からか行動の制約ばかりが議論されるようになり、明らかに日本と比べると失敗している欧米流の感染症対策に基づく対策ばかりが強調されるようになりました。何割行動を抑えたら感染は何割減るといった類のものです。
 その流れの中で、5月のゴールデンウィークをターゲットにして全国に緊急事態宣言がなされ、徹底的な自粛によって、感染者は劇的に減ったのですが、せっかく減ったのに、その間、次なる感染に備えて、感染の大爆発で傷んで機能不全になった保健医療行政を立て直し、PCR検査や、コロナ用病床の確保等の備えを増やすといった対応を怠るところが結構あったのではないかと思います。
 これなども、一番の権威であるはずの感染症の専門家が積極的疫学調査の重要性を忘れてしまい、その体制立て直しこそ大事だという警鐘を鳴らすことを怠ったからではないかと私は思います。
 
 実は、関西では、大阪も兵庫も京都ももちろん周辺の各県も、政府や国の専門家に言われなくてもその立て直しに努力しました。私も隣県に僭越ながらアドバイスをしたこともありました。関西の知事の中でも、人口も多い大県の知事で人気もある方も含めて皆この保健医療体制について、かなりの頻度で発言していて、この事からも、それだけ熱心に取り組んできたのだということは明らかだと私は思います。その結果、第一波の後、関西では、一時期コロナの発生が0という日々が続きました。同じような住民への自粛を強いても、ブスブスと感染が続いていた首都圏とは大違いです。それらの知事さん達が、マスコミに対して、どういうメッセージを発していたかを思い起こせば、少なくともこの機会に保健医療行政を立て直すのだとか、積極的疫学調査の技術をこう改良するとかの言及は、おそらくなかったように思います。いくら、住民の行動を抑制して感染はある程度減らしたにしても、最後に感染拡大の防止に究極的に影響を及ぼしうるのは、積極的疫学調査です。これが疎かになっていては、感染は止められません。人々が自粛を少しルーズにし始めたとたんにまた爆発します。しかもそれが日本の中心地で影響力の大きい地域であれば、他を巻き込んでいきます。夏から秋にかけて、まさにそのことが起きました。
 
 そういう大都市では今はあまりにも感染者が多いので、積極的疫学調査もどうしても十分には行えません。特に現場の方々をそれ故に責めるのは気の毒です。しかし、その場合でも保健医療行政のヘッドクォーターや保健所が余計な仕事をしないで済むように、機能を移したり、応援をどんどん出したり、それらの仕事を専門的知識が必要な、あるいは公権力の行使といったコアな仕事かそれ以外のアンコアな仕事かを分けて、後者を外注に出すなど工夫をするのが、行政のトップの責任です。和歌山県はずっと前からそうしているし、今は更にそれを加速しています。

 そしてコアな仕事だけは、今は十分出来ないかもしれないけれど、絶対に諦めてはいけません。諦めたと言った瞬間にコロナとの闘いの戦線は大崩壊を起こし、その地域を突破口として、日本のコロナは少なくとも欧米並みに大爆発をします。だって感染者がどんどん世の中に出ていくのですから、人にうつすに決まっています。現場が大変なのは私のように現場の動きの細部までハラハラしながらいつも見ている者にはよく分かります。しかし、司令官が大変だからもう仕事をしないでもよいと言った瞬間にもうコロナとの闘いに勝ち目はありません。
 1月15日、神奈川県はもはや従来のような積極的疫学調査はしないでもよろしいという指令を出しました。あまりにも対象者が多くて、十分に積極的疫学調査が出来ないという苦しい事情は痛いほどよく分かりますが、それでもこの決定はいけないと思います。十分できなくて苦しいというのと、やらないでもよろしいというのは全く違います。もちろん濃厚接触者は症状のあるなしに関わらずコロナの感染の有無を調べよという国の指導方針に反しています。しかし、国はこれに対して激しく反発して、是正させようとする動きをするはずだとは思うけれど、少なくとも外からは見えません。和歌山という関西の田舎で全軍を挙げて必死でコロナと闘っている我々からすると、前途に暗澹たるものを感じます。

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